三島の民話 猿婿入

猿婿入

昔むかし、あったど。八人娘持った爺さまだったが、誰も手伝ってくんにぇがら、毎日毎日、ひとんじぇ田作りしったど。

「あ~ぁ、くたびれんなぁ。誰が手伝ってくっちゃらいいだがなぁ。もし手伝ってくれる人いだら、おらの娘くっちぇもいいだがなぁ」独り言ゆったど。したら、「爺さん爺さん、今なんてった? 手伝うごんだ娘くれるって言ったべぇ」猿が聞き付けてそう言ったど。

「んじゃ、俺手伝うがら、俺さ嫁一人くろな」「あぁいいどもいいども。くれっから手伝ってくろ」

猿が本気んなってやったら、たちまち田がでぎっぢまったど。

「爺さん、田もでぎだし、娘明日むげぇさくっからな。爺さんの家までいぐがら」

どって、猿山さいっちまったど。田はでぎでよがったが、いよいよ考え考えきたど。娘八人いっけんじょ、まず困ってなぁ。なんと口に出したらよがんべ。家さ帰っと婆さんに相談したど。

「はぁは、猿んどごさ嫁になんぞ誰がなっとやれ。爺さんがしゃべってみろやれ」

婆さんにもなげらっちぇ困ったなぁ。頭痛ぐなって朝んなっても起きらんにぇだど。

「爺さま爺さま、起きてお茶でも飲まっしゃい。お茶か湯か飲めば、頭病み治っぺぇぞ」どって一番でっけぇ娘来たど。

「いや~実は~こういう訳で、猿とはぁ、おら娘一人くれる約束しただ。おまえ行ってくんにぇが?」爺さんはしぶしぶしゃべったど。 「やだぁ。猿の嫁に行ってられっか」さっさど言いきらっちぇ、次の娘も、次も次も、みんな断らっちぇ、最後の娘一人だげになったど。

「爺さま、よすよす猿の嫁にでも何でもいいがら、さぁ起きて、お茶でも飲んで、ご飯食べらっしゃい」

そう言ってくっちゃだど。

爺さまと婆さまにしれば、一番ばっちだがら、最高にめごい娘やれ。それが爺さまのごどいとおしんで行くって言っただべ。まぁ、猿のどごさくれてやるのも心配だが、約束したがらどって困ってだら、猿たんねて来たど。

「爺さま、約束だぞ。娘もらいさ来た」

泣く泣く、ばっち娘くれてやったど。猿は喜びいさんで、わがの住み家させでったど。そして婚礼して喜んでだら、娘言ったど。

「猿どの猿どの、婚礼なのしても、一戻りっちゅうのしなければ本当の嫁さんにはなんねぇだよ。ほれほれ、餅でもついて、それ背負って帰んなんねぇな」

優しく言ったど。したれば猿は、臼を用意して二人して餅ついて、

「何さ入れでいぐべ。漆塗りのお重箱あんぞ。それさ入れでいぐが」「あぁ漆塗りではだめだ。爺さま婆さま大嫌いだわ」「そんじゃ瀬戸のどんぶりさ持ってぐが」「いやいや爺さま婆さまっていうのは、どんぶり臭いのもとでもだめ」「んじゃ面倒くせぇがら、臼ごど持ってぐが」「あぁそうなれば一番つきたてで、なんぼ喜ぶがしんにぇ」ちゅう訳で、猿臼背負って、二人山がら下って来たど。ちょうど早戸の川っ淵、ほれ、岩の上さたいした桜が咲いでだ。

「あれあれ、あの桜花、ひと枝土産に持ってったら、爺さまと婆さまどんなに喜ぶがわがんねぇ」娘独り言ゆったど。したれば、

「よし、そんなのわげねぇ。俺おだってくる」ちゅって臼おろすべどしたら、

「いやいやとんでもねぇ。臼おろせば土臭くて餅食えなくなっちまぁ」「んじゃ臼背負ったまま登る」どって、ぱーっと登って枝つかめぇで、

「この枝いいがぁー」「いまち~っとその先の枝ならとでもいいなぁ。色もいいがら」娘言ったど。

猿は娘が言った枝さ手かげで、先さ行ったがら、臼背負ってんべぇ、ミリミリど枝が裂げで、川ん中さジャッポーン、落ちっちまった。して、流れでいぐどぎ、

 

さるさわへ 流れる命は

惜しまねど あとのお姫は

なんとなるらん

 

ってドンブドンブ流れっちまったど。ざっと昔、さかえもうした。

元話 佐久間孝一さん(早戸)

再話 五十嵐七重さん(西方)