三島の民話 吹雪の中の声

吹雪の中の声

むかしあったそうな。
みぞれ雪でも降りそうな晩方だっけど~。
「やれやれ雪になんねぇ内に宿さ着ぎでぇもんだ。」
越中富山の薬屋さんは、西方がら柴倉めがげで急がったぁど。柏木山の山坂こえてデッデッデッデッ足運んだわなぁ。
「あっ!つう間に日かげっちまったぁ。こまったなぁ~こごらぁは狐出るつう話だがなぁ・・・やだなぁ。」
心細ぐなって柏木山のすってんぺん仰ぎ見だら、ひゃっこ~い濡れ雪降ってくる。つぎつぎ降ってきて我のからだスーーッと空さのぼるようだ。
「いやっ、急がなんねぇ!」
ドッドッドッ下ったり上ったり急いだなぁ。
「おじちゃーん!せでってよーっ!」
うす暗いススキの草むらがらパッと子どもが飛び出したどぉ。
「ギャー出だ~~っ」
てっきり狐だど思った薬屋は、腰抜かしたどぉ。
「おじちゃんせでってぇ~。なぁでせでってなっ。」
姉さまらしぃ女の子も出て来たもの、薬屋は、
「あやややーー。」
あわくって跳んだ跳んだぁ~、ゴロゴロ転げ回って、まりのように逃げだどぉ~。
「おじちゃーーん、つれでってよーーっ!」
「せでってよーーっ、おじちゃーーん!」
何回も何回も、泣き泣き言ってんの聞けぇだどぉ。
「狐のやろぉ~、よぐも子どもになの化げやがって!」
雪空ん中、汗かぎかぎ宿さかげこんだどぉ。
「いや~こわがったぁ~、今ちぃっとで狐にやられっとごだっけ。」
宿の人だれ聞いても薬屋は何も応えねぇで、いだつぅな~。
夜中になったぁ~吹雪だぁ~柏木山はゴォーーゴォーーほえでる。
「ん?・・ん?・・えっ?・・。」
吹雪の合い間、あいまに、
「おじちゃーーん、つれでってよーーっ!」
「せでってよーーっ、おじちゃーーん!」
薬屋は、布団つっかぶって、一晩じゅうふるえでだどぉ。
「まさが~、あの子だぢは・・狐でなくて・・本物の子ども?」
その哀しい叫び声を聞いたのは、薬屋だげでなくて、ふもとの人も何人か聞いたど。
野沢がらの配達が、雪の中で抱き合って死んでる姉弟を見つけだどぉ~。
今でも松風と吹雪く日には
「おじちゃーーん、つれでってよーーっ!」って聞けぇでくんだどよ。
ざっとむかし、あったど
元話 故・遠藤太禅( 西方)
再話 五十嵐七重(西方)